Sanctuary

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Memorandum about what I learned and thought today

エントロピー・エンタルピー・ギブスの自由エネルギー

本稿では、あえてまずギブスの自由エネルギーから説明していきます。

ギブスの自由エネルギー$G$

定義

以下の数式で表される状態量$G$を、ギブスの自由エネルギーと呼ぶ。

$$G=H-TS$$

ただし、$H:$ エンタルピー、$T:$ 絶対温度、$S:$ エントロピー

ちなみに、ギブスの自由エネルギーは単にギブスエネルギーと呼ぶこともあります。

英語ではGibbs free energyといいます。単位は[J]

状態量なので経路に依存しない。

 

エントロピー$S$

定義

以下の数式で表される状態量$S$を、エントロピーと呼ぶ。

$$ΔS=\frac{ΔQ}{T}$$

ただし、$ΔQ:$ 系に入る熱量、$T:$ 絶対温度

英語ではentropy。単位は[J/K]

状態量なので経路に依存しない。

意味

エントロピー変化は系に入る熱量と絶対温度の比で表される。

すなわち、最初の温度が一定のとき、入ってくる熱量が大きければ大きいほどエントロピー変化が大きい。

なお、エントロピー$S=0$の基準は熱力学第三法則(絶対零度におけるエントロピーは完全結晶なら一定)によって絶対零度にすることができるが、普通は相対的なものとして変化のみを追う。

コラム:絶対零度エントロピーは?

$\displaystyle{\lim_{T\rightarrow 0}S=\lim_{T\rightarrow 0}\frac{q}{T}=\infty}$ではないかと言う人がいらっしゃると思いますが、そうではありません。

$T\rightarrow 0$ならば$q\rightarrow 0$なので、無限大は解消されて$S\rightarrow 0$に収束します。

多くの非金属結晶の熱容量$C$は絶対零度近傍で$T^3$に比例することが知られていますから、これを認め、$q=\int CdT$であることを考えれば、

$$\begin{eqnarray}ΔS&=&\frac{ΔQ}{T} \\ &=&\int CdT\cdot \frac{1}{T} \\ &=&\int \frac{αT^3}{T}dT \\ &=&\int aT^2dT \\ &=&\frac{αT^3}{3}\end{eqnarray}$$

ただし$α$は$α \in \mathbb{R}$の定数。

この式から分かる通り、$\displaystyle{\lim_{T\rightarrow 0}S=\lim_{T\rightarrow 0}\frac{q}{T}=0}$が成り立つのです。よって、絶対零度エントロピーは$0$。

エンタルピー$H$

定義

$$H=U+PV$$

ただし、$H:$ エンタルピー、$U:$ 内部エネルギー、$P:$ 気圧、$V:$ 体積

英語ではenthalpy。単位は[J]

意味

別名を熱含量と言う通り、気体が熱力学的にもつ全エネルギーと考えて差し支えありません。

$U$は内部エネルギーですから、$\frac{3}{2}nRT$とか$\frac{5}{2}nRT$とかのあれのことです。原子や分子の運動エネルギー・位置エネルギーの総和として定義される。

一方で$PV$は気圧によって行うことのできる仕事である。

再度$H=U+PV$の式を見れば、ほら、エンタルピー$H$が、気体が熱力学的に持つ全エネルギーだということが理解できましたか?

ギブスの自由エネルギー$G$に戻る。

以下にギブスの自由エネルギー$G$の式を再掲する。

$$G=H-TS$$

議論しにくいので、等温とし、$\Delta$を$G,\,H,\,S$に対してつけると

$$\Delta G=\Delta H-T\Delta S$$

すなわち、ギブスの自由エネルギーの変化$\Delta G$は、気体の全エネルギーの変化$\Delta H$と エントロピー変化$\Delta S$に伴う熱量の変化$T\Delta S$を意味している。

その意味するところはすなわち、エネルギー安定化を齎すエネルギー変化と エントロピー増大を齎すエネルギー変化の差ということになる。

一般に、物質はエネルギーの安定になる方向に反応が進む。ex)発熱反応。逆に進むこともある。ex)吸熱反応

対して、物質はエントロピー増大の方向にのみ自発的に反応が進む。

もし$\Delta G<0$ならば、$\Delta H<T\Delta S$であるから、例え$\Delta H$が$T\Delta S$と逆方向の反応を示していたとしても、エントロピー増大の側が打ち勝って、まさしくエントロピーの増大する方向に反応が進むことを表す。

もし$\Delta G=0$ならば、$\Delta H=T\Delta S$であるから、2つの反応は平衡になる。

もし$\Delta G>0$ならば、$\Delta H>T\Delta S$であり、エネルギー安定化の側が打ち勝ちそうに思えるが、熱力学第二法則エントロピー増大の法則)に従ってその方向の反応は進むことがなく、自発的には反応が進まない。

例えば、密封された袋に入った気体が液体に変化するのは発熱反応であり、エネルギー安定化の反応である。しかしその液体が気体に変化する反応はエントロピーが増大する反応である。この2つが競合することで、気液平衡に至る。

自由エネルギー$G$と仕事$W$

自由エネルギーの変化$\Delta G$は

$$\begin{eqnarray}\Delta G &=& \Delta H - \Delta (TS) \\ &=& \Delta U + \Delta (PV) - \Delta (TS)\end{eqnarray}$$

等温、等圧とすると

$$\Delta G = \Delta U + P \Delta V - T \Delta S$$

$\Delta U =q+w$(熱力学第一法則;エネルギー保存の法則

$P\Delta V=-w_{体積変化}$

$T\Delta S =q$(可逆変化のみ、エントロピーの定義より)

以上を代入して

$$\begin{eqnarray}\Delta G &=& q+w -w_{体積変化} -q \\ &=& w - w_{体積変化}\end{eqnarray}$$

体積変化に使われない仕事は、別のなにかに仕事をできるエネルギーととみなせるから

$$\Delta G = w_{有用}$$

すなわち自由エネルギーの変化$\Delta G$は全て何か他の仕事をするのに使うことができる。

しかし、ギブスの自由エネルギーの定義式$G=H-TS$を変形した$H=G+TS$によれば、他の仕事をするのに使えるエネルギーは全エネルギー(エンタルピー)の一部であり、$T\Delta S$を使って仕事はできない。($T\Delta S$はどうあがいても利用することができず、束縛エネルギーと呼ばれる。温度を維持するために使われるため。)